まぁ、軍人はどこまで行っても軍人であって、一般人はどこまで行っても、一般人でしかない。

 今回、俺は其れを、痛感した。

 そして、それ以上に、知った。

 

 死んでいるものより、生きているものの方が恐い、と。

 隆信の日記 五ページより抜粋

 

 

 

 

 

 

 

「………なんでまた?」

 隆信の第一声は、それだった。

 場所は学校、一時間目数学の時間。

内容は、『クラス親睦会』だった。何でも、二人も転校生が来たのだから、親睦会を開こうという意図らしい。

日時は、金曜日の放課後。数学の時間があり、抜け出しても問題ないからだそうだ。

 隆信の近くに集まった、数名の男女

―――鈴音、アカネはもちろんの事、このクラスの委員長である男子生徒と憲次。

 黒髪短髪、そして活発そうな印象を与える好青年―――――彼の名は、井吹 練。その見た目どおり、活発で元気な男子生徒だ。隆信とも波長が合い、仲良くなった一人でもある。

 その彼の言葉に、隆信は言葉を返した。

「肝試し?」

「そりゃそうさ!」

 隆信の言葉に嬉しそうに反応する練は、バッと手を周りに向けると、叫んだ。

「このクラスには、レベルの高い女子が揃っている! そして、夏目前! これぞ、肝試しよ!」

 何となく、憲次と同じ人間のにおいを感じるが、隆信もそのノリが嫌いではない。少しだけ嬉しそうに笑いながら、口を開く。

「ふぅむ〜〜〜〜。その心意気、分からんでもないが………」

 隆信は、小さく呻きながら顎を擦る。

 苦々しい言い方だが、実のところ、クラスメイトの気遣いは嬉しかった。確かに隆信も早くクラスに打ち解けたいし、逆に打ち解けられない(本人は、打ち解けたいらしいが)アカネにも嬉しい話に違いは無い。

その様子を見ていた憲次が、嬉しそうに告げた。

「でも、ま、悪くなくねぇ? 俺としては、拳銃発砲娘とは一緒になりたくないけどな」

 ドン、という発砲音。

吹飛ぶ憲次。

それを光景に、隆信は口を開く。

「しかし、鈴音もそうだが、肝試しが嫌いな奴だっているだろ? そいつらはどうする?」

 隆信の言葉に、練は不敵に答えた。

「だから二次会でやるのさ。懇談会は定食屋ツカマド=B二次会は、夕方――――近くの心霊スポットでやる。ま、苦手な奴が多ければ多いほど、盛り上がる、と」

「企画だおれっぽいよなぁ」

 隆信の憂いを聞きながらも、練は「大丈夫」と太鼓判を押す。確かに、このクラスの生徒はアカネが銃を撃っても怯える事は無いし、肝は大きそうだ。

 そう考えていると、当の本人から声を掛けられた。

「肝試しとは、何でありますか?」

 この授業はもっぱら銃の手入れをしているアカネが、訝しげに見上げてきた。その視線を受け、隆信は小さく考えると軽い感じで答えた。

「男としての度胸を試すんだよ。もっぱら、男女ペアで行動して、怖いところを回るんだ」

 隆信の説明を聞いて、アカネは納得したように頷いた。

「………成る程。では、自分も協力するであります」

「お、悪いね。それじゃあ、僕と一緒に幹事って事で」

 そう言って、メモにペンを走らせる練。良い経験になるだろう、と隆信はあえて彼女を止めることはしなかった。

 しかし、この時知るよしもなかった。

 

 

 これが、悪魔の肝試しになるとは。

 

 

 懇談会は予定通り行なわれた。一次会は全員参加し、一人二千円の会費の中、豪勢な宴会が催され、隆信もアカネもクラスとの仲が深まった気がした。

 そして、肝試しが開催される。

「というわけで」

 練の嬉しそうな声の後に、獣の啼く声が当たりに鳴り響く。

そして、その場所は、確かに雰囲気が出ていた。

 都市郊外からまた森道にそれた先、潰れた病院跡。

光も届かない闇の入り口で、隆信は辺りを見渡した。

 無論のこと、面子は少ない。実行委員長である練と隆信、アカネに憲次、鈴音と同じクラスの女子数名、そして男子生徒が五人だ。移動はバスを使ったので、それほど遅くなれない(ただいま、夜の八時)。

 そしてなぜか、周吉がいた。理事長が参加していることに誰も突っ込まないので、隆信は一応、ツッコミを入れてみる。

「遠藤………お前、本当に神出鬼没だな」

「はっはっは。人生面白くなくちゃァねぇ! それと、その銃はしまいたまえ!」

 そう力説し、高笑いをする。すでに慣れている、それどころか諦めてもいる隆信は、たいして気にした様子も無く頷く。無論、後頭部に押し付けているミリタリーは、外さない。

 今なら、確実にやれる―――そう考えた瞬間、目の前から消えた。ハッとする隆信を置いて、周吉は練への挨拶へと、歩き出していた。

 相変わらずの謎の男だ、と胸中で呟きながら、口を開いた。

「まぁ、こっちとしてはホモに狙われるのが気にいらんが、さすがに今日はいなそうだし」

 

「ええ。彼、風邪で休みですわ」

 その続いた声に、へぇ、と感心の声をあげようとした瞬間。

 

 誰の声なのか、理解した。

さも当然のように、真後ろに遙がいて、一瞬遅れて、隆信は悲鳴をあげた。

「うわぁ!?

「きゃ!」

 驚いた拍子で鈴音にぶつかり、慌てて彼女を支える。鈴音に謝りながら、隆信は真後ろに立っていた遙に、叫んだ。

「どっから沸いてでた!? こらっ!」

「もちろん、地面からです♪」

 どこまで本気か分からない彼女を見ながら、隆信は呻くように続ける。

「いったい、どうしてここに………」

 一番の疑問に、彼女はのほほんとした表情のまま、事も無げに言った。

「発信機です」

「どこだッ!? どこに仕掛けやがったッ!?

 制服を脱ぎ、バタバタと叩く隆信。

その光景を見ていた遙は、優しく微笑むと「冗談です」と一言で斬り捨てた。下を脱ごうとしていた隆信はその言葉で動きを止め、遙のほうを、睨む。

「………何をやってんだ? お前は」

 憲次に突っ込まれ、隆信は落ち込んだ。憲次にツッコミを入れられるという事は、それだけショッキングな事なのだ。

そこで一番危険な人物が静かな事に気がつき、隆信は辺りを見渡す。廃病院のほうを向いているアカネを見つけ、声をかけた。

「随分と静かだな、俺が苛められていると言うのに」

「あ、いえ。………幹部を任されたとはいえ、ほんの少ししか手を貸していないので………気になってしまいまして」

「ほんの少し? なんだ? それ………」

 憲次が反応し、一歩前に出たとき、足元から、カチ、という音が聞こえた。その無機質な音に、盛り上がっていた全員が沈黙した。

 沈黙の中、アカネは気が付いたように顔をあげると、口を開く。

「動かないほうが良いであります。それは、対人地雷―――まぁ、いわゆるクレイモアであります。殺傷能力は高くありませんが、もともと地雷というのは―――――」

「良いから助けろぉッ!」

 憲次の悲鳴。説明を切られ、不機嫌そうな表情で、アカネが口を開く。

「肝―――つまるところ、度胸を試すことであります。こういう時に慌てずに自分で解決することこそ、正真正銘の肝試しであり、ペアで解決すれば間違いなく互いの信頼も――――――」

「やかましいわああああああああああああッ!?」

 隆信は、大きく腕を振るうと、彼女の後頭部を、叩いた。

 

 

 アカネに憲次を解放させ、他の地雷も撤去させた後、ペア決めが始まった。ちなみに、膨大な数埋まっていた地雷は、全ての信管を抜くわけにはいかないので、地雷の上に巨大な岩をそっと置いて対処したらしい。

 ペア決めは、トランプ。二枚組みでそれぞれ、ペアになるのだ。

「あ、隆信君。隆信君も、スペードの4?」

「おう。よろしくな、鈴音!」

 隆信のペアは、鈴音だった。アカネのペアは憲次(ご愁傷様)、練の相手は遙、同じクラスの女子と周吉というペア(以下略)だ。

 鈴音は、心底安心した表情で口を開く。

「良かったぁ〜。相手が隆信君で」

 その鈴音を見ながら、隆信は思い出したように眉を潜め、口を開いた。

「そういえば、昔から幽霊屋敷とか苦手だったのに、何で来たんだ?」

 隆信のもっともな疑問――――それに、鈴音は少しだけ驚いたように顔を歪め、苦笑しながらしどろもどろになり、呟く。

「そ、それは………隆信君とも久し振りだし、仲良くしたいし………こ、怖いのだって、もう大丈夫だよ」

 傍目から見れば誤解しかねない鈴音の言葉だが、隆信は彼女が本心でしゃべるという性格を知っているので、気にせず言葉を返した。

「はっはっは。怖かったらいくらでも俺の胸に飛び込んで来いよ! 大歓迎だぜ!」

 バッと手を広げる隆信へ、全然間も開けず、何かが飛び込んでくる。それが何なのか、一瞬では分からなかった。

遙だと知った瞬間、隆信は緊張した。

 生徒会長―――しかも美人が、隆信の腕の中にいる。驚いている隆信は、数秒膠着し――――叫んだ。

「な、何してんだ! テメェ!」

「いえ? いつでも胸に飛び込んで来いって………」

 人をもてあそぶような、遙の笑顔。ドキドキと高鳴る胸を押さえながらも、彼女を押し返しながら、隆信は叫んだ。

「鈴音限定だ!」

「ふふふ。そうですか」

 遊ばれている。そう確信した隆信は、苦々しそうに顔を歪め、彼女の背を見送った。恨めしく見ていた隆信は、小さく呻く。

「うう………。実際に行動されると、戸惑うということが分かった………」

 そんな言葉を聞いていた鈴音は、どう返して良いのか、分からなかったようだ。しかし、嬉しそうに微笑むと、隆信の前に躍り出る。

「さ、行こ! 私たちの番だよ!?

「おうよ!」

 そう答えた瞬間だった。

 ドオオオオオオオォォォォォ―――――

 遠くから地鳴りと爆発音と、砂埃が舞い上がった。隆信と鈴音の前に出発したのが発砲娘とナンパ男だということを思い出し、隆信は小さく呻く。

後を追いかける二人としては、何となく――――危険な気がする。

 震え上がった鈴音を背中で感じながら、隆信は小さく、呟いた。

「幽霊よりも生きている奴のほうが怖いかも知れん」

 何となく、溜め息を吐いていた。

 

「おや、隊長殿」

「さも奇遇だ、といわんばかりの声だが、実のところ間違いなく天国への階段を登りかけている幼馴染の死体を見る限り、そうでは無さそうだな」

 廃病院へ続く通路の、その途中でぽっかり空いたクレーターを眺めながら、隆信はアカネへ向きなおり、声をかけた。

「アカネは怖くないのか? 幽霊」

 隆信の問いに、アカネは小首を傾げながら、答えた。

「ユウレイ、というのが何なのか、確認した事はありません。ですから、興味があるといえばある、という感じでしょうか」

 アカネは幽霊を知らないらしい。日本語は流暢に話せるが、その単語自体で分からない事もあるらしいので、それと同じ事かもしれない。

夜に恐怖は感じないのか、とも考えたが、戦場に身を置いていた身――――夜戦も少なくないのだろう。確かに彼女には、恐れているものは少なそうだ。

「ま、ゴーストも恐れないアカネだ。幽霊も同じか」

 そう呟いた時だった。

 ガタン、という奇妙な音が、真横から響いた。

そして、隣に立っていたアカネを見た時、眼を疑った。

 ガタガタと震えるアカネ。表情はいつもの無表情だったが、明らかに怯えの色が見て取れ、さらに言えば手がありえないほど振るえている。困惑の色を浮かべつつ、アカネが初めて、震える声で聞いた。

「ゆ、ユウレイとは、ご、ゴゴゴゴ、ゴーストの事でありますか?」

「当たり前―――――」

 そこで、気がついた。アカネが布ベストの奥――――何度も訝しげに思っていた、武器のしまいこんでいた場所が、それだという事に気がつく。

隆信の目の前で着々と武装を始めるアカネ。

都市制圧できるのではないか、とおもうほどの武器をしまえるその布ベストの構造に疑問を持ちながらも、それは完成した。

 最後に、青い弾頭を持つ銃弾を敷き詰められた箱を取り出し、隆信へ告げた。

「………隊長殿。危険ですので、ここで………」

「おいおいおいおいおいおい!」

 其れがなんなのか理解した瞬間、しゃれにならないことに気がついた隆信は、彼女を押しとめた。

アンチマテリアルライフル―――『対物狙撃銃』。

 その名の通り、建物や物質を破壊するために開発された、軍用兵器だ。前回、アカネが使っていた特殊弾頭を使い、目標物をことごとく破壊するその銃は、アカネのような女の子が扱えるような武器ではない。

L82A1≠構えるアカネを、隆信は抑えた。これをこの場所で連射されれば、間違いなく建物は大破―――国際テロとして、新聞に名を飾ってしまう。アカネなら何とか耐えられるだろうが、こっちが危険だ。

「と、止めないでください! 隊長!」

「いや、さすがにな! そ、それに、壊したら祟られるぞ怨まれるぞ呪われるぞ!」

 隆信の必死な説得(?)に、彼女の手が止まった。

次いで向けられたのは、アカネの意外な表情。困ったような、泣き出しそうな顔で隆信を見上げ、その視線を受けた隆信は、困ったように頬を掻いた。

「いや、そんな顔されても………。あ、べつに、強制じゃないんだから、このままもどれよ」

 隆信の提案にアカネは一瞬だけ迷い、すぐに首を横に振った。キッと視線を強くすると、決心めいた声で告げた。

「このままでは、自分の負けになってしまうであります! それだけは、それだけは嫌であります」

「いや、負けとか………………なんで俺の腕を掴んでるの? あれ、引っ張られ?」

 アカネはガシッと隆信の腕を掴むと、歩き出す。その場でおろおろしている鈴音へ、隆信はとりあえず叫んだ。

「け、憲次の奴を頼む! 頼むぞ!」

 「うん」と頷いているのを見送り、隆信はアカネと共に廃病院へ入っていった。

 

 

「た、隊長殿! どこがどうなってどうなれば勝ちでありますか!」

「だぁ! 良いから放せ!」

 砕けたガラスを踏みしめながら、隆信とアカネは病院の中へ入っていった。廃墟独特のかび臭いにおい、そして初夏なのにひんやりとした外気に肌を晒しながら、隆信は周りを見渡す。

さすがに懐中電灯が無ければ歩くのも危険なので、隆信はアカネの持ってきた懐中電灯をつけた。

 病院は、確かに廃墟だった。が、不良やら何やらが来たらしく、謎のスプレーの落書きを見ると、恐怖も薄れていく。というより、今夜は月が明るいので、暗闇が少ないせいか、恐くなかった。

もともと隆信は、こういうものに滅法強いから、楽勝でもある。

「な? あんまり怖く――――」

 アカネの方を見て、絶句した。

 彼女は、赤外線スコープと帯銃型グレネードランチャー、そしてFN MAGマシンガン≠装備していた。

引き攣る頬を必死で押さえ、隆信はアカネの肩を叩こうとした。

 その瞬間、アカネがバッと身体をひるがえし、FN MAGマシンガン≠フ銃口を隆信に向け――――――――

「え?」

 迷う事無く、引き金が引かれた。

驚きと共に顔を下げた隆信の上へ、いくつもの光条が飛び交う。

その銃撃音は、二十秒間、続いていた。巻き上がったほこりが晴れ、静まり返った後―――アカネが、小さく声をあげた。

「た、隊長殿………でしたか」

「頼むから、確認してから攻撃してくれ」

 恐る恐る後ろを振りかえると、分厚いコンクリートの壁がごっそりと無くなっていた。徹甲焼夷弾の威力に冷汗を感じながら、隆信はアカネの武器を没収、解体させ、仕舞わせる。

不安そうなアカネの視線を受けながら、隆信は告げた。

「………ほれ、怖いなら俺の後ろを歩け」

 隆信の言葉に、アカネはキッと眼差しを戒め、叫んだ。

「こ、怖いなど………!」

「説得力無い」

 一言で斬り捨て、彼女の頭を叩く。反論したくても出来ない―――忌々しそうに見上げる彼女は、それでもおずおずと歩き出した隆信の後ろを、付いてきた。

 病院の屋上にある御札――――それの回収が、目的だった。ありきたりだ、いう隆信の考えは――――アカネの異常な行動で、打ち消された。

「ハァ、ハァ、ハァ………!」

 異常なまでに膨れ上がったアカネの息と、緊張感―――――状況が状況でなければ誤解されてしまうほど、彼女の息は乱れていた。

武器が入っている(らしい)布ベストは没収したし(どこからどう見ても、どこを触っても布でしかない)、彼女の手にはナイフしか無いが、危険な気がするのは、隆信だけだろうか。

 うっすらとした廃病院の中を歩くだけ――――一歩毎に、アカネの緊張感が高まっている気がした。それでも、隆信は軽口を叩く。

「どうだ。楽だろ?」

「………………」

(ダメだ、完全に周りへ注意を払ってる)

 無視され、少しだけ寂しくなりながらも、隆信は目的の階段を捜そうと視線をまわして、気がついた。

 

 アカネがギュッと、腕を掴んでいたのだ。ほんのかすかに、隆信の服の裾を引っ張る、その小さな手が、かすかに震えていた。

 其れを見て、アカネも女の子なのだ、と改めて理解した。理解したうえで、微笑む。

見つけた。

 この病院の構造は、少し特殊である。入り口にはロビーと待合室があり、そこから各科の入り口がずらっと並び、その奥に階段があった。そこから屋上まで登って行かなければならないのだ。

 さすがにその頃になると、幽霊も見かけないので、アカネは余裕を取り戻していた。

 隆信みたいに、軽口を叩く。

「こ、これ、これは、か、軽いものでありますね。ま、まけまけ」

「………ぷぷ」

 アカネのその様子がおかしく、思わず笑う隆信。

アカネはそれに気付いているのか、すでに開き直っているのか、そのまま告げた。

「ユ、ユウレイもゴーストも存在しません! なぜなら、自分は見た事も無いで――――」

 二階に上がったときだった。

 真っ白な、ソレ

膨れ上がった頭部に、三つの黒い点―――顔だろうか―――――そして、揺れる足元の布、そしてなぜか透けている身体。

 ソレらが四体ほど、踊り場にたむろっていた。足元には、これまたそのユウレイと同じ材質の酒。

ソレは、軽く手を上げると、言葉を発した。

「お、胆試しかい? 若いねぇ」

「俺たちも若かったが、ねぇ」

「お! 美人だぁ」

 完全な老人の声――――これが幽霊だ、と思うと、隆信は呆れるを通り越して、大きく溜め息を吐いていた。怖いどころか、むしろ茶飲み友達に欲しそうな奴らである。

 ハッハッハと笑いながら、アカネの方を向いた時、正直、気がぬけていたとしか良いようがない。

いつの間にか、手の中から布ベストが消えていた。それを確認したのは、アカネの方を見た時に気がついたので、いつの間にか奪われていたようだった。

そして、これまたいつの間にか、彼女は武装していた。

L82A1≠ヘもちろん、帯銃型グレネードランチャー、FN MAGマシンガン≠構えたアカネは、眼を回しながら、それどころか、すでに笑っているような表情で、叫んだ。

「全員その場を動くなぁッ! 動かなかったら幽霊で、動いても幽霊だ!」

「全員じゃないか!」

 隆信が突っ込んだ次の瞬間、世界が真っ白に染まった。

 徹甲弾は階段を易々と撃ち抜き、発射されたグレネードは通路を爆破。マテリアルライフルから発射された弾は、崩れてきた天井が打ちぬかれた。

「うわああぁぁぁぁぁッ!?

 そう叫び、彼女は布ベストに手を突っ込むと、中から四つの手榴弾を取り出し、口で安全ピンを抜くと投げ捨てた。

爆発。その爆風を気にせず、全弾撃ち終えた後も、手慣れた様子で装填し、再度撃ちはじめる。

 屋上にあがる前から、屋上は全壊、三階もろとも、吹飛んでいた。

 奇跡的に生きていた隆信(アカネの後ろにいたのだ)は、その光景を見て、絶句していた。

先ほどまであったコンクリートの壁が完全になくなり、建物が半壊していたのだ。アカネはアカネで、二丁の大型銃(本来片手で撃てないはずなのだが)を落とすと、世紀末覇者のような笑顔で、呟く。

「ふ、ふふふ………。あれだけの圧倒的質量だったら、いくらなんでも」

 しかし、その幽霊三人組は(当たり前の事だが)悠然とした感じで、その場所に立っていた。

仄々とした口調で、告げる。

「おうおう、過激だねぇ」

「最近のは危ないねぇ」

「第二次を思い出すよ」

 プチッ―――――――。

 謎の異音が響いた次の瞬間、アカネが抱えていたものを見て、隆信は絶句した。

 XM109=Bしかも改造してあるのか、見慣れないベルト式給弾につけられているのは、高性能炸薬(俗に榴弾とも言う)、そして、もう片方には、銃型連続射出式グレネードランチャーが付けられていた。

それを構え、叫んだ。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 消えろおおおぉぉぉぉぉ!」

 次の瞬間。

もはや世界が、破滅した。いくつもの爆音と炸裂音、光に炎、撃音で耳をダメにした隆信には、音すら届かず―――静寂の闇を切り裂く光は、白にしか映らなかった。

 廃病院は、大破した。

 

 気絶するアカネを見下ろしていた隆信は、引きつった表情を浮かべていた。

 他の生徒には被害もなく(次のグループは、最初の銃撃音で逃げ出していたらしい)、あの幽霊三人組もさすがに消えた頃。

クラスメイトには詫びを入れ、全員が帰路についていた。

「つ、つかれたぁ」

 隆信は、アカネを背負いながら、そんなことを呟いていた。

 同じところに住んでいる上、アカネを介抱出来るのは、隆信しかいないのだ。それに、最大の理由が、あった。

 

 アカネの手が、何時の間にか隆信の服を掴んでいて、放さないのだ。

 

 鈴音は練と一緒に、憲次を運んでいる。其れを見送った後、最後に歩き出した隆信は、ため息混じりに、呟いた。

「ま、でも、意外な一面が見れて、楽しくは、あった、よな」

 何処と無く、アカネが好きになれそうな、隆信だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 







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