新しい話を、しようか。

 かつて。

 人の身でありながら、『悪魔』の血≠その身に宿し、真理を超え、『大神』の右手を持つ、そんな存在がいた。

 強いんじゃないか、って? 其れは違う。

 彼は、常に血に塗れていた。遠い日に誓った約束に従い、あらゆる『害意』から、その身で護れるものだけを、護るために。

 体中に、傷を負った。

 心はズタズタに切り裂かれ、綻んだ。

 折れたことも、あった。

 億以上の命の断罪を、背負った。

 全てが、自分の責だと、いった。

 歩き続けた者が、いた。

 

 さて、罪とは何処で償われるのだろうか?

 断罪とは? 浄化とは? 終焉とは?

 生きていてはいけない事を、言うのだろうか。

 生きながらえながら、不幸のどん底に落ちることを、言うのだろうか。

 自分で決めていいことなのだろうか?

 他人が決めることなのだろうか?

 

 彼には、答えが出ていない。

 幾多の戦場を駆け抜け、それでも決して退かず、しかし、死にもしなかった彼に、答えはなかった。

 ただ、『約束』だけはあった。

 幸せになれ、という、その『約束』だけは。

 

 何の話か。

 

 これは、『人間』ではなく、また、『悪魔』にも『大神』にもなれず、何者にもなれなかった彼が、ただ1つ、望んだ事―――――。

 

 その、お話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らの運命に打ち勝ち、歪んだ世界を正した『英雄』は、帰還する。其れは、自分の生まれ育った場所ではなく、多くの『約束』を紡いだ、その場所。

 麻帆良学園都市。

 

 その公園で、物語は文字通り、『再開』するのだった。

 

 光に包まれる世界。闇と光が交じり合ったその場所で、見えない壁に阻まれた自分は、其れを見ていることしか出来なかった。

 白い世界から自分を護るように、両膝をつきながら、こちらを向いている男性。黒一色に染められたその男の胸からは、何かが突き出され、ねっとりとした色だけが、張り付いていた。

 紅い色に染まる、その液体。それと同じものを口の縁から吐き出し、男は咳き込む。

 顔を歪ませながら、男は言葉を発した。

「ク、クソッタレ………。まだ、生きてやがったか」

 其れに対して、何かが言葉を返していたが、聞こえない。自身も声を張り上げていたが、其れすらも聞こえなかった。

 しかし、男はこちらを見ると、僅かに口の端を、吊り上げた。

 笑ったのだ。この状況で。その表情は、見慣れたそのものであり、そして、冷たい表情だった。

「き、気に、するな。………み、認められないのは、慣れて、る」

 自身に、苛立ちしか覚えない。今の状況を見ていることしか出来ないのも、彼に、そんな言葉を言わせてしまう自分も、嫌だった。

「………ごめんな」

 その口から、その言葉が毀れた時、世界は確かに、色を変えた。

 光はその色を弱め、三色しかない世界から様々な色が、燈った。

「約束=\―――護れなくて」

 闇に包まれる、発光を続ける世界樹≠ゥら、耳にざわめく音。開いた視界に映るのは、それでも力強く笑う、男の姿だった。

 どこまでも、どこまでも、彼らしい、不敵な笑顔。

 そして舞い上がった、紅い粉雪。視界を多い尽くしていくその霧は、やがて世界ごと、自分を包み込んできた。

 そして、世界が真っ赤に、染まった。

 

 






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