人は、どこまで人であれるのだろうか。

 強さとは、何なのだろうか。

 人とは、何であるのだろうか。裏切り、怯え、見棄て、犠牲にし、あらゆる富を手に入れようとする。

 神とは、何なのだろうか。

 何の為に、存在する? 人間を創ったのが、本当に神なら何故、滅ぼさない?

 人は、禁断の領域に踏み入れた。遺伝子のほとんどを解明して、核という破壊の力を手に入れた。

 そして、今、最後の力を手に入れようとしている。

 全てのものを拒絶し、全てのものと相容れる存在、最後の、物質。

 反物質

 そして、物語は、神との決別の末の決戦から始まった。



――――――聞こえますか?

 貴方は光を――――――持っていますか?

 私は、―――――――持っていました。

 私は貴方の様に、光を持っていません。光でしかないのですから。

 遠い昔に、闇を失いました。

――――――聞こえますか?

 貴方は闇を―――――知っていますか?

 私は、―――――――知っています。それが私の存在する理由全てであり、私です。それらを消すために、私が存在するのですから。

 私は、―――――――知っていました。

 私は貴方の様に、闇を持っていません。光そのものですから。

 遠い昔に、光に成りました。

――――――聞こえますか?

 私は貴方を、待っている者です。








 ある学者は、夢を見た。

 壮大な草原。その真っ只中に、一人の学者が立っている。真っ白な白衣に、無精ひげを携えた男性の前に、一つの存在が立っている。

 真っ白な鎧を着た、神々しい騎士――――彼は、剣を顔の前で掲げると、告げた。

『物質を創ってはならない』

 彼の言葉に、学者はすぐに意味を知った。それは、彼の研究課題―――まさに明日、結果が出るものだった。

 純白の騎士は、告げる。

『汝等は、神の領域を侵しつつある。今すぐにやめねば、世界の終焉が来よう』

 学者は、反論した。

『夢の神に、何が出来る? 本当に居るのなら、俺を止めてみろ』

 そこで、夢は途絶えた。


 不思議な夢だ、と頭を振る。とうの昔に途絶えた振興の象徴が、夢の中に出てきて、自分に忠告した。

 真っ白な部屋を、見渡す。研究者用に割り当てられた部屋の中で、頭を掻いた。

 ここ数日、全く風呂に入っていない。臭いで鼻は曲がり、本来の機能を果たす事も無かった。とはいえ、高鳴る好奇心と笑顔は隠しきれない。

 騎士の忠告は、間違いではない。今まさに、我々は物質を作り出すことになっていた。

 反物質=B

この世界とは全く逆の電荷を帯びた物質。この世のものと触れればたちまち互いと反応し――――消滅する。
 
その威力―――一gで二〇kの核に相当するうえ、エネルギー効率は一〇〇%。まさに、神のみに許された物質。確かに存在するが、確認できない物質。

 それが、今日、我々の手で生み出される。それが、全てだ。

 部屋の中の、白い時計を見上げる。時間は、まだあるようだ。
久し振りのシャワーを浴び、伸びた髭を剃り落とす。髭のある顔よりは断然若い顔を鏡に向け、小さく頷いた。

薄汚れた白衣ではなく、新しい白衣を着る。スーツ姿は、堅苦しいので嫌だ。

そしてその足で、部屋を出た。

 光の走る研究室内。取り囲むカメラの数は、およそ五百を越える。その中心に、対核用フィルターが幾重にも重ねられた装置。
 
 ここで、創造が行なわれる。世界初の、創造だ。




 少年は、親の付き添いでその研究所にきていた。なんでも、神様が見られるらしく、ここに来たのだ。

 しかし、つまらない。見慣れたケーブルに足を躓けるほど、人と機械に溢れていた。

 研究所の中は、未知の空間だった。勝手に動く歩道に、人が飛んでいる球状の空間。創造なんかより、そちらのほうが楽しかった。

 そのまま、その研究所を飛び出す。外に出たのを知ると、戻ろうと来た道を振り返る。

「待て」

 呼び止められ、足を止める。振り返った先には、真っ黒い布を身体に巻きつけた存在。

 真赤な髪の毛に、真赤な眼。その存在は、静かに告げた。

「………もう、戻る必要も無い」

 次の瞬間――――――世界が光に包まれた。

 真っ白な世界に、真っ白な光。それを遮っていたのは、先ほどの影―――見下ろすと、口を開く。

「もし、お前が、本当に力を欲するのなら――――俺様と、手を組まないか?」

 その意味を知る事になるのは、実に十年もあとの話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、昔話をしよう。

 それは、戦争の話だ。そして、それを止め、すてられた男の話だ。


『アカツキ』―――――スイスのある研究施設から発生したといわ
れているが、詳しい事はわかっていない、謎の生命体。

 分かっているのは、『アカツキ』は敵であるという事。そして、それは世界の脅威であるという事だ。

 『アカツキ』は、違う空間に存在しているのが問題だった。しかも、本体が別空間に存在しているというのに、こちらには干渉することが出来るという不条理な存在。世界各国の名立たる軍隊も、これには手も脚も出せなかった。

 しかし、一人の日本人が、その状況を変えた。

 世界最強の老人―――『東宝仙人』如月 紳。
古今東西、あらゆる武術の真髄と頂点を極めたというその存在は、
『氣』という物を操り『アカツキ』に触れ、それどころか吹き飛ばしていた。

 その『氣』―――それが、解明された。

 『フォトン』――――光の粒子。この世でもっとも純粋な物質。ある特定の人間は、身体の中で『フォトン』を生み出す事が出来るのが、わかった。

 その一人が、『東宝仙人』だった。彼のおかげで世界は、最強の敵に対抗できる力を手に入れたのだ。

 しかし、一つの謎があった。その『フォトン』を操れる人間は、純粋な日本人など、各種族の純粋な人間だけが、発現することが出来るという事。しかも何故かは分からないが、日本での発現例が一番多く―――それも、高出力の『フォトン』を操ることができる者が多かった。

 しかも、だ。純粋な人間ということは、必然的に女性の割合が多くなる。男性だと遺伝子が組み換えられるが、母方の遺伝子が主で、生まれたのが女性だと―――遺伝子の組み換えはほとんど行なわれない―――らしい。

 そして、その戦争には、当然のごとく、若い人間が前線に借り出されていた。『フォトン』解明に時間がかかったのが、原因で軍人が足らなくなったからだ。

 『ルシフェル』――――『アカツキ』と戦う人間を、そう呼んでいた。



 戦争は、続いていた。そして、一人の男が、高校生の身ながら借り出されたのだ。

 その名は、駒沢 雄一。

 黒髪の毛と、気の強い感じを受ける眉間に集めた眉毛。黒の制服には微妙に浮いた感じのする風貌だ。

 名前は駒沢 雄一。勉強があまり得意ではないが、喧嘩だけは強い男だ。不良というわけではないが、それなりにあれていた男。

 彼が最前線に借り出された理由―――それは、彼の義姉 駒沢 蓮にあった。

 名実共に、世界最強の『ルシフェル』。圧倒的な『フォトン・ルース』と技術、能力は、まさに人間側の切り札だった。

 その義弟である雄一に注目が集まるのは、必然ともいえよう。

 しかし、雄一には、その才能はなかった。

 『フォトン・ルース』は確かに非凡なものであるものの、彼が望んだものではない。

 彼の血=Bそれが、原因だった。

 なぜか、彼の血≠ノは、大量の『フォトン』が内包されていた。そして、彼の能力は、それを操る事ができる事だ。

 それ以上、それ以下でもなかった。

 しかし、彼は様々な出会いを繰り返した。

 自身の部隊である日本支部【メルギド】の総司令就任。

 高校生に総司令をやれ、というのは確かにおかしいが、それほど戦線は切迫していたのかもしれない。

 彼は、自身の能力とただ命がけの戦場で鍛え上げられた戦い方で、仲間達と共に戦い、『アカツキ』の襲撃を抑え、反撃し、幹部達を倒していった。

 そして、彼はいつもどおり、『アカツキ』の迎撃に向かい――――――ここで、物語は分岐を迎えたのだ。

 

 


 

 



 面白かったら拍手をお願いします!







 目次へ