勉強? 高校の時にはすでに軍属で『アカツキ』と戦っていたし、そのまま(当時)日本支部に入れられたし、やっていないさ。

だが、甘く見てもらっては困る。たかだか中学二年生の授業、俺にとっては苦でもなんでも無い! はっきり言って、楽勝だ!

―――――――そう考えていた時期が、俺にもありました(死)。

 ………いや、最近の中学生は、難しい事やってるね。正直、明日菜がここにいるのがおかしいとすら思ってしまった。

 そして、最大の壁が、ネギに近付いてきた。それは、果てしなく高く、重く、堅かった。

 それと共に、俺にも、それが来た。

いや、もはや必然ともいえるべき確率で、ここに来たのだ。

 そして、それは―――――最悪のタイミングで、きやがった。

 テスト期間。

 ―――――――――――――――――――――――正直、もう嫌だ。

 

 

 

 

 

 第六話 問いを学ぶのか? 学ぶのを問うのか? 前編

 

 

 

 

 さて、皆は次の数を見て、どう思う?

バカレンジャーブラック綾瀬 夕映23。バカレンジャーピンク 佐々木 まき絵、32。 バカレンジャーイエロークーフェイ、27。バカレンジャーブルー長瀬 楓、29。

最後に私、神楽坂 明日菜………………15。

 なんだと思う? IQではないけど、それに近いもの。

 ―――――予想問題のテスト。もちろん、一〇〇点満点よ。

………最悪だわ。

「明日菜………お前、本気でやばいんじゃないのか?」

 この言葉を発したのは、雄一だ。

 雄一は数学を教えているが、ほんの少し前までは、私よりも分かっていなかったはずだ。関数の意味も分かっていなかったし! え? 私は知らないわよ?

 いいじゃない! エレベーター式の学校だから、学力関係ないのよ! え? エスカレーター式っていうの? 何が違うの?

 最悪なのは、それを高畑先生に見られた事。うう、もうだめ。軽蔑されたぁ………。雄一にも笑われたし、踏んだり蹴ったりよ!

 正直、切羽詰まっていたのは、認めるわ。ネギに散々「魔法を使うな!」っていっておいて、私はその魔法書に縋りつくんだから。

 でもね………小学生は嫌なのよッ! 最近はネギの所為で高畑先生に嫌われているんだから! この間だって………(赤面)。………うぅ。

 ったく………。ほんとうに呆れるわ。

 雄一だってそうよ! この間の休みだって、私たちの誘いを断って何かしているのかと思ったら、全身傷だらけで帰ってきたし!

 ………本当に、傷だらけなんだよね。

 正直、あいつが何をしているのか、聞く気も無い。ネギにもいわないんだから、そう簡単に踏み込んでいいことじゃないと思う。

 ――――――なんであいつの事が気になるんだろう。

 ま、分からないし、興味も無いからいいけど。………気になってないんだからッ!

 そんなこんなで、私達は図書館島に来ていた。一つの島を丸ごと図書館にした、今更思うけど、結構常識外れな場所だ。

 そびえたつ城のような、大きな図書館島。来る途中ネギに見つかった(まぁ、皆荷物を持っていたから目立つけど)が、ちょうどいいかもしれない。連れて行こう。

雄一がいれば、もっと安心出来たかもしれないけど。

 ―――――ああッ! さっきから何でアイツの事なんか気になるのッ!? いっておくけど、好きなのは高畑先生だけなんだからねッ!?

 まぁ、本屋ちゃんとパルを置いて、私達(楓とクー、まき絵ちゃんに、夕映、木乃香、ネギの七人)は図書館に侵入したんだけど―――――――――――常識外れだわ。………・今更だけど、こんな図書館がある学園にところに通ってたんだ。

 ネギを適当にいくるめて、図書館を進む。

 図書館は、薄暗かった。光源になるようなものは、天井のガラス越しに降り注ぐ月の光や、非常灯ぐらいだし。

 むむぅ………。本当に危ないわ。ひっそりとしているし、幽霊とか出そう。

「ところで、図書館に何があるんですか?」

 そんなことを考えていると、ネギがキョトンとしたような顔で聞いてきた。

そういえば、ネギには黙っていたわね。何となく文句言われそうだったから、黙っていたんだけど。

答えたのは、夕映だった。

「良くぞ聞いてくれました、ネギ先生。実は、私達の目的は図書館の際奥にあると言う、『頭のよくなる本』なのです!」

 ネギの質問に、夕映が答え―――――ネギが眼を点にして叫んだ。

「ええっ!? そんな、こんな日本の図書館に魔法書なんて………」

「そうとは限らんえ? ここは世界最大規模の貯蔵量やし、誰も奥のことが分からへんし。ウチの祖父ちゃんが色々集めとったしな〜」

 ニコニコと笑いながら返す木乃香。どうでもいいけど、それって自分の祖父が変なものを集めているのを認めているようにしか聞こえないんだけど?

 っていうか、夕映達はどんどん先に進んじゃう。

急がないと、と私が進もうとした時、思いっきり腕を引っ張られた。

腕の先には、涙目のネギの顔が、あった。

「明日菜さんッ! ドッチボールの時、あんまり魔法に頼るなって言ってたじゃないですかッ!?

 う………厳しい事を言ってくれるじゃない。

「こ、今回は仕方ないじゃない! このままじゃあ、私たち、大変な事になるわけだし………」

「うぅ………。明日の朝御飯は、雄兄の肉じゃがだったのにぃ………」

 うわ、ネギが落ち込んでる。

まぁ、イギリスの料理は美味しくないって聞くし………雄一の料理は美味しいしね。木乃香と同じぐらい美味しいし、なんかこう、食べても飽きない、というか。

………ほんとうに、お兄ちゃんっ子になってきたわね、ネギ。まぁ、雄一がいない時は私と木乃香で面倒を見ているから、私たちにも懐いているようだけど。

 ま、ガキンチョのコイツでも、やっぱり魔法≠ヘ当てになるしね。

 でも、本当にここ、おかしいわ。何度溜め息を吐いたか、分からないもの。

 侵入者対策の罠である、つり天井や落とし穴、降り注ぐ矢の雨――――それらを、私達は何とか切り抜けたわ。勉強はダメだけど、運動神経だけは良いのよね、私たち。

どうでもいいかもしれないけど、本棚の上を通って思う。

水の中の本とか、どうやってとるんだろう? 腐蝕しない? なんか、下が見えないところとかも通ったけど、何処まで続いているんだろ? 途中の本って、どうやってとるの?

 そんなこんなで、私達は最深部、十三階に来た。服とか結構ボロボロだけど、ここに来たら、そんなこと気にならなくなった。

広いわ。それはもう、広い。

「うわっ!? なにここッ!?

「ああぁッ!? ラスボスの間だよ! ここ!」

 まるで、神秘性に包まれた神殿のような空間に、ポツンと佇む一冊の本。両脇には、それを護るように佇む剣と槌をそれぞれ構えた石像。

それを見た時、ネギが声をあげた。

「メ、メルキセデクの書ッ!? 凄い! 本物ですよ!」

「メ、メル………なんだって? 凄いの? それ?」

 ネギの言葉は難しいからわかんないけど、なんか凄そうね。ネギが興奮しているところなんて、始めてみた。

「一流の魔法書ですよッ!? あれなら、頭を良くするぐらい簡単に………」

「マジあるかッ!? ネギ坊主ッ!?

 マジッ!? なら手に入れないと!

 そうやって駆け出した私たち――――その瞬間。

『フォッフォッフォ』

「! 皆さん! 石像(ゴーレム)です! 避けてください!」

 その謎の声と共に、ネギの声が聞こえて、思わず足を止めた、その眼の前へ―――巨大な槌が現れた。いや、それだけじゃない! 叩きつけられたんだ!

 石像が動き出したッ!? 驚いている私たちのいる床にヒビが入り――――砕けた。

「「「「「「きゃあああああ〜〜〜〜〜っ!?「うわっ!?」」」」」」」

 しかし、すぐに落下は止まる。高さにして、大体二メートルぐらいだろうか、どちらにしろ、無防備に落ちた所為で、あちこちが痛い。

うぅ………おしりが痛い………。

「み、みんな、大丈夫………?」

 私の問いかけに。

「な、何とか………」

「痛いアル〜〜〜〜」

 と、痛々しい声が戻ってきた。

 どうやら、皆無事らしい。穴も浅かったし、当然といえば当然だろうか。

埃を落としながら、周りを見渡す。

見渡していて気がついたのが、足場はただの足場ではない、ということかな。

たしかに石造りなんだけど、正方形に切り取られた足場の上に円状の石が膨らんでいて、

足で押してみるとへこみ、足をどけると元に戻るっていう、変な造り。

そう、今は懐かしいツイスターゲームの、あのマットみたいな感じ………。

 「って、これ、ツイスターゲーム?」

  明かりを近づけると、円状の石にはローマ字で”あ”から”ん”までの五十音と濁点、小文字のそろった石で並べられている。

………誰? こんなの造ったの?

 「何よこれ………」

  思わず出た溜め息を噛み砕きながら、見上げる。直立不動のまま、対なる石像は佇みながら、私達を眼下に、見合っていた。槌は、あれが落としたみたい。

………どうでもいいけど、ロボットかしら? あ、石像の場合、ゴーレムって言うんだっけ?

 さすがに、それはないか。でも、どうして槌が落ちたのかな? まぁ、落とし穴のようなものなのかもしれない。

 視線を皆に戻して、怪我が無いか確認する。それほど高さがないので、怪我はないようだ。

………? なにか、変な感じがする。

 「ね、ねぇ、あの石像今動かなかった?」

 「へ? 気のせいじゃない?」

  指差しながら、石像を見あげる。その動作を見て、他の皆が顔をあげる。石像は先ほどと同じように不動のままこちらを見て―――――――。

―――いや、何かおかしいわ。

   石像は、動いてない。それは確か。

先ほどのように、騎士は剣を眼前に構え、槌を両手で持ちながら。視線をこっちに――――アレ?

 う、動いてるッ!? こっち見てるッ!?

「な、ななななな!? 石像が動いたぁ!!?」

  何々何何々ッ!? アレもトラップなの!? 襲われたらひとたまりも無いじゃない!

 そう思ったときだった。

 『フォッフォッフォ、この本がほしくば……ワシの質問に答えるのじゃ〜フォッフォッフォ♪』

  ―――――喋った。あろうことか、石像が喋った!? 

 なんなのよッ!? アレッ!? アレも魔法♀ヨ係なのッ!? ――――でも、どっかで聞いた事がある声ね? 気のせいかな?

 あ、楓ちゃんが眼を開いてる。珍しいわね。………気持ちは分かるけど。

  とりあえず、石像は大真面目らしい。大きな槌を振り回しながら、ポーズを取っている。

左胸にはバージョン24.5と書かれているけど、アレは何? え? やっぱりロボットなの?

『さあ!! はじめるぞい!! 第一問!!』

  私の疑問をさえぎるようにスピーカー付きのような声で喋る石像。

とりあえず、今はこれをクリアするしかない見たいねッ! 穴から出て逃げるなんて選択肢は、私に無いわ!

 そして石像は、大きく手を動かすと,叫んだ。 

『”DIFFICULT”の日本語訳は?』

 「え? え!?」

 「何? 答えればいいの?」

「お、落ち着いてください皆さん!」

  やり方ぐらい説明しなさいよッ!? どうしたらいいのよッ!

 その時、ネギが声をあげた。

「皆さん! 落ち着いてくださいッ! 多分地面に書いてある文字を問題にあわせてツイスターゲームの要領で踏むんです!」

 

 あ、そうかッ! なら簡単ね! ………やり方だけだけど。

「でぃ、でぃ………なんだっけ?」

 カルト? 宗教集団? 

外国語だから、思わずクーのほうを向くけど。

「私に聞かれてもわからないアルー!」

  即効で返答された。なら、ネギに―――――。

『フォッフォッフォ、ネギ君、教えたら失格じゃぞ〜』

 ちッ! 意外と頭がいいわねッ! あの石像――――って、何でネギの名前を知ってるの? チビなのに、先生とか分かったわけ?

 何となく、何かを思いつきそうに小首をかしげている私へ、ネギが叫んだ。

「ほ、ほら「簡単」の反対ですよ! 「簡単じゃない」!!」

  簡単の反対じゃないって………あ! そうか! 答えは「むずい」よ!

 私は慌てて近くにあった「む」を押す。

 そして、木乃香が「ず」を押して、まき絵が「い」を押す。………完璧!

『むずい………まぁ、正解じゃ』

 え? 何で渋い顔をするの? あ、顔は変わらないけど、そんな気がするのよ。

 「やったえ〜」

 「これで本をゲットアルよ〜」

  ああ、これで本が手に入る―――――けど、なんか嫌な予感が………。

『では続いて第二問「CUT」』

 「ちょっと、終わりじゃないのぉ!?」

 思わず悲鳴を挙げる。聞いていないわよ、そんなの!

 『フォッフォッフォ。全部で十二問じゃよ〜。あそうそう、一度触った所を離しても失格じゃからの?』

 「ああああああああああ! もうッ!! やってやるわよ!」

 これは、もう私たちへの挑戦ね! ヤッテヤロウじゃないの!

 

 

 

 

 

「あたたたたた〜〜!」

 「アスナ、手をもうちょっと上げてって膝、膝がぁ〜〜」

 「みぎゃー!」

八問目を越えた時点で、私たちの手足はこんがらがっていた。はっきりいって、有名な絵よりも複雑かもしれない。

夕映ちゃんはブリッジ、私なんか腕を捻って関節が真逆の方向に向いている。こ、これが、じ、地味にい、いたい………。

木乃香や楓、クーなんて、すでにほとんど固まっていて、もう動けそうにない。私だって、右手だけで全体重を支えている状態―――――正直、ピンチよ………。

 『フォッフォッフォやりおるのぅ。では第十一問、「DISH」』

  DISH……お皿か。雄一がよく言ってるから、覚えてるわ。

「ら」は………あ、私の近くにある。「さ」は楓、「お」は………木乃香ね!

 「「ら」は私がやるわ! 楓は「さ」、木乃香は「お」をお願い!」

  指示をだすと、皆はすぐに手を伸ばす。木乃香は左手をずらして「お」を押して、楓は―――――なんか、疲れが見えないんだけど? 本当は、忍者なんじゃない? 

そして私が「る」を押して―――――――

あれ? 「る」を押して?

 「………………「る」?」

  ………………………………………………………………

 やっちゃったああああああああああああああああああああああああッ!?

 『フォッフォッフォ、残念ハズレじゃ〜〜』

 「ちょ、違うアルよぉ!?」

 「わぁああああああ! ごめ〜〜んッ!」

 「アスナのおさるー!!」

  悲鳴を上げるように騒ぐ私たち、本当の馬鹿レンジャーへ、止めといわんばかりに足場を壊す、騎士の一撃――――――地面が、砕けた。

私達はそのまま地下へ落下していきました、とさ。

 

 ほっんとにごめん! 皆!

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――ネギ達が消えた。半眼で見上げていた俺は、スッと懐からメモを取り出す。

 真相は、こうだ。

 ぶっちゃけると、ネギを正式に教員採用するための試験が、今は亡き宇宙外生命体ガクエンチョウから言われたのだ。

 

 故人曰く。

 2‐Aが最下位脱出したら正式採用してあげる♪ byコノエモン

 

 正直、この瞬間に目の前にいたら、殺していたかもしれない。まぁ、原因はガクエンチョウにある訳じゃないから、半殺しで勘弁するが(というが、すでにガクエンチョウは他界している)。

 原因は、あろうことか、明日菜だった。ネギを追い込んで魔法を封印させておきながら、自分は魔法の本(メルキセデクの書というものらしい)を図書館島に取りにいき、あろうことかガクエンチョウの策略にはまり、奥深くに落ちていったらしい。

 巻き込まれたのは、バカレンジャーこと神楽坂 明日菜、長瀬 楓、クーフェイ、佐々木 まき絵、綾瀬 夕映、近衛木乃香、ネギの七人らしい。一緒に行った早乙女 ハルナと宮崎 のどかは、見張り役を買って出たらしい。

 不甲斐無い事に、それを知ったのは、ネギがいなくなった次の日の、授業中だった。前日は『仕事』で朝帰りだったので、ネギが部屋に帰っていないことに気付かなかったのだ。御飯は作っておいたのだが、朝は忙しく、それが残っている事に気がつかなかったのだ。

 

 さて、最初に故人曰く、と言ったと思う。

 

 聞いた瞬間、学園長室に乗り込んだ。問い詰めると、案の定ガクエンチョウの陰謀だった。

 その話を聞いた瞬間、俺は一回部屋を出て、近くの用具入れから棒状のものを取り出す。それと同時に、手首を噛み切り、血をまぶす。

 捕捉するが、俺は血≠操る事が出来る。止血や其処を血液で固めるなど、造作も無いことだ。まぁ、痛いんだけど。

そして、満面の笑顔でガクエンチョウ室を、プラズマ・ストライクで吹き飛ばした。

「フォーッ!?」と謎の奇声を上げるガクエンチョウが炭と化したその部屋で、俺は顎を擦った。

 空が青い。なにやらガス爆発が起きたように真っ黒に焦げ、一面の壁をなくした部屋は、すでに瓦礫の山だ。一番損傷の酷い場所には、なにやら上から崩れてきた瓦礫に埋もれる宇宙外生命体がいるぐらいだ。

「………由々しき事態だ。とりあえず元凶を殺しに来たものの、解決策が見当たらん」

「お、御主は………!」

 ぴくぴくと震えながら立ち上がるガクエンチョウ。その真っ黒な姿を見て、俺が悲鳴を挙げた。

「ぬぉッ!? まだ生きていたか! さすがは宇宙外生命体!」

「………儂、泣いても良いかのぅ」

 ことある毎に、俺に金をせびられ(脅し、奪われ)、何かある毎に『許可』した技で吹き飛ばされ、槍を投げられ―――――ガクエンチョウは、ボロボロだった。

 しかし俺は、憮然とした態度で言い放つ。

「貴様に泣く権利はないつうかそもそも人権がないつうかお前は人間じゃない」

 あっさりと存在を全否定する。その俺を見て、学園長は地面に突っ伏した。

「………………じじい虐待じゃ」

 ところどころ絆創膏を張っているが、ダメージはないのだろう、結構ぴんぴんしている。ガクエンチョウ室など、すでに体育館などにあるパイプ机やパイプ椅子を引っ張り出され、業者さんがすでに改修工事に入っていた。

(………プラズマ・ストライク。彼自身の『能力』が関係しているようじゃが、対攻城戦用の魔法並みの威力じゃな。腕が切れているところをみると、本人にもダメージが行くようじゃが………。ま、魔法障壁≠ナ防げるのが、唯一の救いじゃて)

 ちなみに、いくら俺とはいえ、ブラッドクロスで攻めはしない。モップに血≠つけて打ち出したのだから、たいして威力も無かったりする。ブラッドクロスの場合、これの三倍は威力が在ると思っていい。

――――――――ただ、大量の血≠使うので、二発が限度だが。

 俺は俺で、致命傷を喰らっていない学園長が、変だと思っていた。

 フォッフォッフォ、と謎の笑い声を上げるガクエンチョウ。

成る程、炭にするぐらいでは殺せないらしい。正直、解剖してみたい。

「さて、儂じゃて伊達や酔狂で、自分の孫娘やその友達を危険な目にあわせるわけじゃない」

「嘘付け」

 即答。迷いもなくばっさりと袈裟きりした俺の言葉に、学園長は意図して耳を逸らし、続けた。

「………これは、ネギ君の試練じゃ。雄一君には悪いが、ここは我慢してくれんかのぅ」

 

「よぉし、歯ぁ食いしばれ。今度は途中で爆砕して降り注ぐ一撃をかましてやるから」

 

 青筋を立てている俺をスッと見て、学園長が顔を挙げた。

 眼は見えないが、その視線が真剣なのは、分かった。

しばらくにらみ合った後、俺が折れることとなった。

「………仕方ない。さすがに宇宙外生命体とはいえ、其処まで常識外れじゃないだろう」

「………思うんじゃが、宇宙外生命体とは、一体どういう存在なんじゃ? あれ? 儂、銀河系の生物ですらない?」

 一応納得した俺だが、とりあえず学園長には告げておく。

「認めるが、何かあったら、俺はネギの所にいくからな。明日菜たちも心配だし」

「それは、儂からも頼む」

 深々と頭を下げる学園長に、俺は溜め息を吐いた。

「………まぁ、他の生徒の為にプリントを作って対応するしかないな」

「………すまんのぅ。仲良しこよしで、あのクラスがテストで最下位を脱出するのは、難しいのじゃ」

 だから、集中できる環境でネギに勉強させる事を、瞬時に思いついたらしい。

 ガクエンチョウの企みだから、まさかテストに間に合わないような事は無いだろう。バカレンジャーや木乃香の安否は気になるが、頭が悪い代わりに運動神経が良いのだから、大丈夫だ。まぁ、ネギがいることだし。

 ………不安になってきたのは、きっと気のせいだ。

 

 

 そんなわけで、残っている生徒の面倒を見る為に、2‐Aに戻ってくると、残っている皆が、きちんと勉強していた。俺が入ってくると、ネギ達の安否を聞かれたので、「大丈夫だ」と答える。

「最下位だと確かに大変な事にはなるが、それを差し引いても、進路を決めるのに学力はあって困るものじゃない。人の為に頑張るのもいいが、自分のためでもあることを覚えておけよ」

 俺の言葉は、クラスの生徒に届いたようだ。

 こうして、珍しく2‐Aが静かなまま、授業が始まった。

 

 

 

「雄一先生」

 授業が終わり、声をかけてきたのは、刹那だった。その表情はどこか心配そうで、誰かの安否を気遣っているように見える。

 実際、そうなのだが、そこまで気負いしなくてもいいのでは、と雄一は思う。

 その刹那を安心させるように、雄一が微笑みながら口を開いた。

「安心していいぜ。あのガクエンチョウのたくらみだから、木乃香に何か起きる事は無いだろうし」

「そうでしたか………」

 ホッとしたように相好を崩し、微笑む刹那。歳相応に見えるその笑顔に、雄一は続けて告げた。

「しばらくは、夜の『仕事』も俺がやるから、テストに専念するといい。ガクエンチョウにも言っておいたから」

「そう、ですか………。はい、頑張ります」

 心なしか残念そうに聞こえたのは、気のせいだろう。彼女の授業態度は悪くないので、テスト自体の成績も悪くはない。

だが、学生の本分は勉強だ。なので――――――――

「そういうわけだ、真名。お前も勉強に専念しろ」

「………やれやれ。ばれていたのかい」

 後ろからそっと近付いて来ていた真名は、残念そうに顔を歪める。何をしようとしていたのか判らないが、中断した判断は正しかっただろう。

その真名の態度に苦笑しながら、雄一は注意を促す。

「ま、二人としては未熟な俺に任せるのが心配なのは分かるが、ここは俺を信頼してくれ」

 雄一の言葉に、二人は呆れたように溜め息を吐いた。

その『能力』の性質上、血塗れになることが多いとはいえ、雄一は十分戦える。あの時使った『必殺技』は、十分な威力を誇っていた。

 とはいえ、血塗れになる雄一を、二人は心配しているようだが。

 と、そこでチャイムが鳴る。二人に軽く礼をして、雄一は二人が教室に入っていくのを見送ったあと、職員室に向かって歩き出した。

「こ、駒沢先生ッ!」

 そこで、またもや呼び止められた。訝しげにそちらに視線を向けると、宮崎のどかが胸に手を抱いて、立っていた。髪の毛を少し短くして結い上げたその表情は心配と、後悔の色で染まっている。

「あ、あの、その………」

「………」

 雄一には、彼女が言おうとしている事を、察する事が出来た。誰よりも優しい彼女のことだから、止められなかった自分に負い目を感じているのだろう。

 やがて、決心して口を開いた彼女へ。

「その………ッ! ごめんな「気にするな」 ―――――ッ!?

 言葉を、被せた。眼を見開いて驚く彼女へ、雄一は近付く。

 雄一は言葉を待たずそういい、彼女の頭を撫でた。撫でた所で男性恐怖症だったのだと思い出すが、はずすことはしないで、思いっきり撫で付ける。

 恥ずかしさで顔を真赤にする宮崎へ、雄一は不敵に微笑み、告げた。

「バカレンジャーや木乃香、さらにはネギまで居るんだ。滅多な事、起きやしないさ。だから、皆がかえって来た時、足を引っ張らないように、一所懸命勉強しておけよ? 向こうはネギがいるんだ。ヘタをすると、負けるぞ?」

 そこで、手を離す。視線を向けてくる宮崎を真っ直ぐ見つめ、続ける。

「いざとなったら、俺が駆けつける。………安心しろって」

 安心させる為に、全力で笑顔を作る。その雄一の笑顔と、その言葉を聞いて、宮崎は少しだけ安心したように頷いた。

ちょうどその時、手の時計に眼がついた。

「とと、そろそろいかないとな。じゃ、勉強頑張れよ」

「あ、………は、ハイ!」

 戸惑いながらも答えてくれる宮崎に軽く礼をいれると、雄一はやや駆け足で、職員室に向かって行った。

「………」

 宮崎は、しばらくその場でボゥッとした後、顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

 

 明日菜さんたちに連れられ、図書館島の最深部で、僕達はゴーレムに襲われました。なぜかツイスターゲームをすることになって、間違えて落とされました。「お皿」と「お猿」を間違えるなんて………正直、吃驚デス。

 そして落ちた先には、秘境が広がっていました。

 

 

 

 

 湖に向かって落ちる滝に、それを囲むように様々な形で立つ本棚、そして天に向かって延びる木々に、何処からか漏れる木漏れ日。春先のように暖かいその温度は、心地よい眠気を誘ってくる。

 湖に落ちた七人は、無事だった。落ちてきた場所が見えないほどの高さから落ちたというのに、全員に怪我らしい怪我は、ない。

「いてて………。皆、大丈夫?」

 湖から這い上がった明日菜が呼びかけると、皆が湖から這い出てくる。ずぶ濡れだが、この気温と光なら、すぐに乾くだろう。

「………それで、ここは何処なの?」

 まき絵の言葉に返答したのは、夕映だった。

「ここは!? もしや幻の地底図書館ではッ!?

「地底図書館、でござるか………?」

 怪訝そうな楓の言葉に、夕映の態度が豹変する。眼の辺りを暗く、しかし笑顔で重々しい口調と共に口を開く。

「古今東西、あらゆるジャンル、作者を集めた、まさに真の意味での楽園(エデン)です。そこは季節、時間に関係なく光に溢れ、悠久の時をすごすと言う。………そして、そこに至って戻ってこられたものはいないと言う、幻の図書館です」

 夕映の言葉に、明日菜がキョトンとした顔で手を上げ、冷汗を掻きながら発言する。

「………戻ってこられない幻の図書館なのに、なんで知ってんの?」

「誰も見たことが無い伝説のビックウェーブの噂と同じ原理です」

 きっぱりと言い切られてしまった。

「皆ぁ〜? ちょっとこっちきてぇなぁ〜」

 湖から少しはなれた場所にあるコテージから、木乃香の声が聞こえた。

それに気がついた全員がコテージに向かうと、中からノートのようなものを持って、木乃香が出てきた。

「………木乃香、それって?」

 明日菜の問いに、木乃香は笑顔で答えた。

「あんな、うちらが使うとる英語の教科書とノートや。それだけや無くて、全教科があるんよ〜〜〜」

 テーブルの上にずらりと並べられた教科書と使っていないノート。幻の地底図書館に、何故二〇〇三年改訂版があるのだろうか?

 とはいえ、当面の問題は食料なのだが―――――。

「コテージの中に、業務用の冷蔵庫があるようでござる。なかなか、レパートリーに溢れているでござるよ」

 ニンニン、と楓が確認したのか、戻ってきた。誰も来たことが無いのに、業務用の冷蔵庫と中に新鮮な肉が入っているのか?

 普通、疑問に思うのだろうが――――それは、バカレンジャー。気にするような人間は居ない。

「でも、このまま私たち、帰れなくなっちゃうんじゃ………」

 心配そうに口を開くまき絵の言葉に、皆に奇妙な緊張が走り――――それに、ネギが答えた。

「大丈夫ですよ! 元気を出してください! 外には宮崎さんや早乙女さんが居ますし、雄兄もきっと探してくれます! 勉強できる環境があるんですから、勉強をしましょう!」

 ネギの言葉は、信頼に溢れていた。それは、雄一に対する信頼と、自分がくじけちゃいけないと言う両方の思いから出た言葉である。

 

 

 それを聞いた皆は――――――

 

 

「こんな時に勉強アルか? ネギ坊主〜〜」

 クーフェイが、少しだけ呆れたように言う。そのクーフェイへ、ネギは笑顔で答えた。

「ハイ! 絶対に大丈夫です!」

 ネギの顔を見て、明日菜は微笑んだ。

(………なんだか、真剣に悩んだ私がバカみたい)

 なんだかんだ言って、雄一は頼りになる。時間はかかるかもしれないが、確かに助けに来てくれそうだ。

「………そうね。ネギの言う通りよ。皆! やるわよ!」

 「「「お〜〜〜〜♪」」」「やれやれです」「ニンニン♪」と、それぞれが返事をする。ネギの言葉に、皆元気が出たようだ。

 そして、その全員を見渡して、明日菜が告げた。

「まず、御飯にしない?」

 盛大に、皆がずっこけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――彼等は、特に何も感じない。彼等が見知らぬ場所に居ても、他の存在が彼等以外感じなくても、彼等は寂しいとも思わないし、辛いとも思わなかった。

 

 痛みも、苦しみも、悲しみもない。在るのは、『ソレ』を手に入れる喜び。

 

 彼等が望むものを持っている『ソレ』を守護しているのは、二つの石像。三人の彼等は、三人で襲い掛かる。

 

破壊した時、爆発が起こった。その所為で仲間が一体、吹飛んだが、誰も動きを止めようとはしなかった。

 

 全が一、一が全――――それゆえに、一つがなくなっても、何も感じない。何一つ、失っていないのだから。

 

 そして、『ソレ』を飲み込む。

 

 感じるのは、言葉に代えがたい幸福、満足感。全ての個体が場所と時を越え喜び、共有する。その時の満足感と高揚感は、彼等にとってなにものにも変えられない、喜びだ。

 

なおも『ソレ』を求め、探し、蠢く。

 

 彼らが感じるのは、一つの感覚――――その周りにあるのが、美味しい食べ物。

 

 唯一感じられる感覚―――喜びを、彼らは求めていた。

 

 圧縮された『ソレ』は、下にあった。残った二つが壁に突進し――――瞬間、体が燃え上がる。先ほど取り込んだ『ソレ』を感じて、彼等は身を歓喜に打ち震わせるのみ。

 

 仲間など居ない。だから、哀れみや悲しみも、無い。

 

 気にせず、その死体を突き破り、彼は身を其処に投じた。

 

 一つに集まっている。その数、およそ七―――彼らには、見る眼がなく、正確にはわからない。

 それでも、良かった。唯一感じられる喜びは、一つの喜びであり、全の喜びでもある。

 

 邪魔な要素は、一つも無い。時々それが入るのだが、今はもう、どうでも良かった。

 

 目指すのは、この螺旋の下だ。

 

 

 

 

 

 学園長は、予想外の事態に、珍しくうろたえていた。

 

 使っているはずのゴーレムから信号が途絶えたのだ。仕事をする為に意識を外し、仕事をしていると突然、魔力の反流(リバウンド)が起きたのだ。

 

 眼を使っても、なにかの干渉に合い、よく見えない。七人は無事のようだが、もしもの事があったら困る。

 そこで、雄一を向ける事にした。彼自身も行きたがっていたので、問題はないだろう。

 そして、ネギがいなくなって二日目の夕方、雄一は学園長に呼び出された。

「そろそろ、ネギ君たちを迎えに言って欲しいんじゃ」

 そう切り出した学園長の身体には、包帯が巻かれていた。訝しげに見ている雄一へ、学園長は申し訳無さそうに口を開く。

「本当は明日にしようと思っておったんじゃが、使っていたゴーレムが壊れる予想外のことが起きてしもうてのぅ。雄一君、様子を見てきてくれんか?」

「はぁ? ま、まぁ、学園長が良いのなら、今すぐ向かいますが」

 途中で言葉を濁していた部分が気になるが、どうやら監視の目が壊れたらしい。危険な場所だと言うことは宮崎から聞いていたので、今すぐにでも向かうつもりだった。

 雄一は、学園長にネギたちの居る場所を聞くと、一直線に図書館島へ走っていった。

 その雄一の姿を見送って、学園長は呟く。

「………事故であってくれればいいがのぅ」

 そう考えながら、学園長は空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

「………でけぇ」

 三十分後。雄一は、出来る限り早く準備を整え、城のような図書館へ走ってきていた。その大きさと規定がいな設備に度肝を抜かされたが、今はそれどころではない。

 雄一は、図書館島に着くと、学園長の行っていたエレベーターを探すことにした。

 思いのほか、ソレはすぐに見つかった。巧妙に隠されているが、雄一の勘の鋭さは、一般人レベルではない。

 エレベーターに乗って、しばらくすると、止まる。

 螺旋階段。奈落に続くように螺旋を描くその場所は、まるで地獄の落とし穴のようだった。

 そして、雄一は気がついた。

 鼻にひりつくような、ニオイ=Bそれは、ここにいるはずの無い、かつての仇敵が、居ることを示唆していた。

 何故、どうして、ここで―――様々な疑問が浮かぶ前に、雄一は動き出していた。

「ネギたちが危ない!」

 次の瞬間、雄一は螺旋階段の中心、奈落のような空間へ、身体を投げ入れ、ソレと共に左腕につけておいたブレスレットに、手を触れる。

 刹那、闇が広がる。

雄一を包み込むように現れた、漆黒の布の所々に紅い閃光が走り、落下していく雄一の身体を、包み込み――――浮かび上がらせた。

 漆黒のスーツに、黒の装甲、そして紅い『フォトン回路』、黒のバイザーを備え付けた『ルシフェル』は、身体に光の粒子を舞うと、奈落の闇に、堕ちていく。

 其処には、一つの『悪魔』の姿が在った。

 




                             後編へ続く



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