8、後日談

 

 『神隠しの金曜日』は、終わった。

 

 キョウと黎徒が所属していた組織により、末端組織は壊滅―――文字通り、組織は消えてなくなった。しかし、過去の被害者の家族には説明する事も出来ず、闇の中に消える事となる。

 島は、空洞全てが崩壊し、崩れ去った。残った場所を捜索部隊が探したが、コミュート≠フ実験結果や黎徒の安否は、中心部の空洞の崩れにより、不明だ。

 そして、みんなの後。

 メシアは、組織が預かる事になった。今は、その膂力を抑える術と、日本社会のルールを教えているらしい。その辺りは、キョウも保障してくれたので、梢は安心である。

 吉雄は、無事保護された。末端組織の一部である会社の倉庫に入れられていたらしい。無事でよかったが、彼だけ蚊帳の外だという事になる。

 浅葱や宗、梢は、事件に巻き込まれたわけではなく、友達の家に泊まっていることにした。随分と長い宿泊だ、と怒られたのは、言うまでも無い。

 キョウは、前の太った身体で登校した。あの格好なら、酷い怪我でも見た目は変わらないから、ちょうど良いらしい。

 そして、黎徒は―――――転校扱いとされた。クラスの中で惜しむ声が少なかったのが、梢には残念で仕方なかった。

 前述どおり、島の捜索段階では、生存を確認されていない。梢はすでに泣いていないが、浅葱や宗、キョウが隠れて泣いているのを、知っていた。

 

 

 そして、今日―――――

 

 

 2011年 12月 31日――――前回の『神隠しの金曜日』唯一の生存者で、事件解決の糸口となった『梓姉』の墓参りに、全員でいく事となった。

 

 

 

「………遅いぞ、梢」

 黒いロングコートを着ている浅葱は、誰よりも早く来ていた。その後、宗とキョウが一緒に現れ、最後に梢が来たのだ。

 梓の墓は、黎徒たちの住んでいた町を一望できる、山の頂上に建てられていた。その中腹の駐車場に集合の予定だった。

 梢は、困ったように頭を提げると、弁明した。

「ごめんね。この子を連れて来たの」

「………ん? 君は、メシアちゃんか」

 梢が連れてきたのは、ジャンバーとマフラー、手袋と完備したメシアだった。しかし、あの島で会った時よりも血色のよい、褐色の肌、そしてくりくりとした目―――恐怖を与えていた鬼≠フ正体は、可愛い女の子だ。

「コ、コンニチハ」

 まだぎこちない日本語で頭を提げるメシア―――彼女の両肩に手を置いて、梢は言った。

「………私が、引き取ろうと思うの。まだ、企画段階だけどね」

 梢の手を、嬉しそうに掴んで微笑むメシア―――浅葱は、小さく微笑むと、告げた。

「そうか。それなら、あいつも喜ぶ」

 浅葱はメシアの頭を撫でながら、悪戯っぽく笑った。

「なら、黎徒は私のもので良いな?」

 浅葱の突然の言葉―――――悲鳴があがった。

「ええっ!?

 梢の悲鳴に近い叫び、そして今まで黙っていた宗が手を上げ、聞いた事の無い大きな声で叫んだ。

「異議ありです!」

「おやおや、黎徒はモテモテだね。僕には、モテなくて困っているっていっていたのに」

 キョウが悪戯っぽく笑い、山を見上げた。つられて、全員が視線を上げ――――

 風が、吹いた。

 

 

 山を登っているときは、皆、終始無言だった。あの辛い無人島での体験を思い出し――――黎徒との思い出を思い返していたのかもしれない。

 しかし、小さなメシアだけは、違った。

「オカヲ〜〜〜〜コエ〜〜〜〜イコウヨ〜〜〜〜♪ クチ〜〜〜ブ〜〜〜〜エ、フキツツ♪」

 音程も曲の調子もいい加減な、歌。その声で、皆の寂しさが、不思議と和らいだ。

「オニイチャンモ、イッショニワラッテ、ミンナデアソビマショ♪」

 山の頂上が見え、石碑が、眼に映った。

 見た目では、何の変哲も無い記念碑を見ながら、キョウが、言った。

「黎徒は、自分が秘密警察に所属するのと交換条件で、梓さんをここに埋めたんだよ。ほら、石碑の横に、文字が書かれているだろ?」

 記念碑の横―――ごつごつしている岩肌が、途中浮き上がっている。そこには、こう書かれていた。

『二〇〇五年 一二月 三一日 蔵月 梓 ここに眠る』

 黎徒の世界、人生を変えた人。

そして、メシアを救った人。

 救世主は、この人なのかもしれない。結果としてどれほど辛い別れが来ているとしても、地球外からの脅威と暴走が、止められたのだ。

 その時、まだ来てから一言も喋っていない宗が、口を開いた。

「………先輩、あれ」

 宗が指差したのは、記念碑の横―――梓姉の名前の前に、無造作に置かれた一輪の花。

 花は、今朝切られたのか――青々と咲き誇っていた。そして、梢には見覚えがある。

「………あれ? これって………ハルジオン?」

 梓姉が大好きだった、小さく白い花。その時、キョウが小さく微笑んだ。

 皆の視線が、集まる。その視線を一身に受け、キョウは口を開いた。

「そうそう。捜索―――というよりは、新しい情報だったけど、彼等―――ああ、誘拐していた実行犯なんだけど、彼等は僕らを運ぶ為に潜水艦を使っていたらしいね。それも、あの研究所に直結している

 

 轟っと風が吹いた。

 

 誰もがキョウの話に集中している中、メシアは難しい日本語の説明で、つまらなそうに頬を膨らませていた。適当に視線を辺りに向け、後ろをチラッと見たとき―――気が付いた。

 

「………さらに言えば、最近、東京湾でその潜水艦が見つかったんだよ。恐らく―――」

 

 梢の手すら振り解き、走り出す。突然のメシアの行動に全員が驚き、彼女の走り出した方向に視線を向けた。

 

 それぞれ全員の顔が驚愕―――そして、思い思いの顔にかわった。笑顔、微笑、泣き顔、困ったような顔――――――。

 

 キョウは、その先の存在に向かって――――告げた。

 

「よっぽど、地獄の食事が口に合わなかったようで」

 

 冷たい北風は、全ての悲しみを吹き飛ばしていってくれた。

 

 

 

 

 

                         【エンド・オブ・ブレッド 完】





 さて、いかがでしょうか? エンド・オブ・ブレッド、完結です。

 え? ホラー? 違います(断言)。黎徒の大胆活劇だと想っていただければ、間違いなかとです。
 ちなみにこれは、中学校の時の作品ですので、結構ストーリーが破綻しているかもしれませんね。とはいえ、ワルカディの原点ですので、楽しんでいただければ、これ幸いです。

 ちなみに友人の手によって消されましたが、全員死ぬという、いまでいう梢ヤンデレルートというのが存在しまして――――これは後悔する気がありません。ていうか、もう無いです。

 さて、最期まで読んでいただき、ありがとうございます。この物語が皆様に気に入られることを祈りつつ。
 ワルカデイでした♪





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