七月 二十八日

 ミ〜〜〜〜〜ン、ミンミンミンミ〜〜〜〜〜。

 せみ時雨が、一段と力を持ち始める頃。

 晴海は、都市部に向かって歩いていた。いつもとは趣向を変え、駅近くにある『柳市立図書館』に向かっている所だ。自転車で敷地内に入ると、自転車置き場に止める。

 返すつもりだった本の入っている鞄を、荷台から取り出した。

「は、晴海さ〜〜〜〜ん!」

 その時、声をかけられた。訝しげに視線を向けると、そこには祐樹が私服で立っていた。

 夏休みに入って以来、会う機会も無い。晴海は呼び止められた格好で顔だけ向けると、告げた。

「………何?」

「い、いや、偶然だな、って。………晴海さんも、勉強?」

 祐樹を見てみると、彼は鞄を肩にかけていた。真面目な彼らしく、夏休みの宿題を早めに終わらせようとしているのだろう。

 その宿題を配られても、一日で終わる晴海(今年は、もう終わっている)にとっては、彼の苦労は知るところではない。首を静かに振ると、告げた。

「………本を借りにきた」

「へぇ。な、ならさ、一緒に行こうよ」

 そう言いながらも、彼は隣を歩き出す。晴海にとっては、どうでもよかった。

 図書館は、ひんやりとクーラーが効いていた。ただ、晴海としては、夏は暑いほうが好きである。

 早く出ないと、と思い、借りた本を返しに向かう。図書館の入り口近くにあるカウンターには、見慣れた顔があった。

「あ、おはよう。晴海ちゃん」

 眼鏡をかけた、中年で禿げ上がった頭を持つ男性―――鈴木 宣夫。図書館をよく利用する晴海とは、顔なじみだった。さらに、『忌み子』と呼ばれる晴海にも、優しく接してくれている。

 晴海は頷き、借りていた本の入っていた鞄を差し出した。それを受け取りながら、宣夫は隣の祐樹を見て、少しだけ驚く。

「おや、彼氏かい?」

「あ、いえ、その………」

 しどろもどろになる祐樹を背に、晴海はきっぱりと言った。

「同級生。本、借りて行くから」

 そう言って、振り返った。「ま、待ってよ」とその後を追いかけてくる祐樹―――二人を見て、宣夫は頬を?く。眼鏡を直しながら、呟いた。

「なわけ、ないね」

 事務の仕事を始めていた。

 晴海に追いついた祐樹は、居心地の悪い顔をしていた。晴海のもっとも嫌な顔でもある。

 気にせず、めぼしい本を本棚から探し出す。晴海の行動に、祐樹も少しだけ尻込みをしていた。

 しかし、彼は意を決したような表情で、彼は晴海と本棚の間に身体を入れ、告げた。

「あ、あのさ、今度の夏祭り、一緒に、行かないか?」

「………夏祭り?」

 思わず聞き返し―――思い出した。毎年、近くの神社で盆踊りと花火大会が催されるのだった。そのことを思い出している晴海へ、祐樹は続ける。

「来年は、その、忙しいだろうし、ええっと、………晴海さんと一緒に行ければいいな、って思って」

 どんどん声が小さくなっていく祐樹―――晴海は少しだけ悩んだ後、告げた。

「いい。人込み、嫌い」

 晴海の言葉に、彼は力の抜けたような顔を見せ―――悲しげに「そ、そう」と頷く。しかし、すぐに表情を変えると、告げた。

「だ、だったら、花火だけでも一緒に見ない? す、すぐ終わるし

 消え入りそうな声で、祐樹が何かを言っている。聞こえなかった晴海は、聞こえなかったので振り返ることも無い。

 それに気が付き、祐樹が何か言おうとするよりも前に、晴海が動き出していた。

「ど、どこ行くの?」

 既に借りる本も見つかり、返却も終わっている。借りる本を宣夫に預け、晴海は振り返り―――少しだけ悩んだそぶりを見せた後、告げた。

「森繁牧場」

 確か、間違いではないはずだ。

 

 

 

「コ、コーチ! た、大変だ!」

 家の中のキッチン――朝食を作り始めた頃、外から騒がしい声が聞こえてきた。朝早く、さらにいえば起きて三十分も経っていない所で、頭に血が回っていないのに、彼女の相手は、辛い。

 孝治は、ガスを切って、扉を開けた。

右手に持っていたオタマを肩に担ぎ、告げた。

「どうした朝っぱらから。昨日、確かに午前っつったが、早すぎるだろ」

 昨日の朝、走っていた彼女の姿と同じ格好で、顔を真っ赤にして牧場を指差す。そのまま、叫んだ。

「う、牛! 牛が居る!」

 十秒。彼女の言葉を噛み砕くのに、それだけの時間を有した。

彼女の指差す方向を見て、また伸び始めた牧草を食べている巨大な生物、白と黒の縞々模様を持つ哺乳類動物を見て―――孝治は手に持っていたオタマを落とした。

「はぁ?」

 牛が二頭、牧場に居た。

 

 

 モー。

 

 

「………倒産した牧場の牛が、逃げ出していた?」

『はい。きっとそうだと思います』

 とりあえず外に居る牛を放っておき、真理を家にいれる。電話で茜さんに電話をして事情を説明した後、一回切られ、十分後に返って来た言葉がそれだった。

『番号札を確認しない事にはなんともいえませんが、先月近くの酪農牧場が経営破産したんですよ。その時に数頭逃げ出していたので、恐らく。裏山に居たんでしょうね』

 簡単に言ってくれるが、孝治としては納得のいかないことだらけだ。訝しげに思っていると、彼女の言葉が返ってくる。

『それで、その牧場の人に連絡を取ったんですが、譲ってくれるそうですよ。なんでしたら、引き取ってくれますか?』

「………まぁ、家としては助かりますが、そんな簡単に決めて良いんでしょうか?」

 ―――――結局、孝治が引き取る事になった。

 所有権やその他いろいろな手続きは、後々やっていく事になるが、しばらくは家畜扱いではなく、ペット扱いをしてくれるらしい。

牛舎も綺麗になっていたが、牧場の柵が壊れているので、それを直さないといけないようだ。

すっと孝治は満面の笑顔を、真理へ向けた。

「というわけだ。諦めてくれ」

「何がっ!?

 家の中なのにボールを頭に乗っけ、孝治を待っていた真理は、孝治の無理な言い方に悲鳴をあげた。

 彼女のほうを見ながら、孝治は頬を掻く。

「まぁ、掻い摘んで説明すると、牛が俺の家のものになって、柵を直さなくちゃいけない。しかも、緊急に。だから、お前の練習を見ることは出来ない」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!? 昨日見てくれるっていったじゃないかー」

 明らかに、不満そうだ。いっている自分に罪悪感すら覚えるのは、それだけ彼女がサッカーに真剣だからかもしれない。

 孝治はしばらく悩んだそぶりを見せ、口を開いた。

「………しゃぁ、ないか。柵直している間にちょくちょく見てやるから。それでかんべんな」

 孝治の言葉に、真理は少しだけ悩んだ後―――パッと顔を明るくさせた。

「あ、じゃあ、お昼ご飯も食べたい! 昨日のお昼に食べたチャーハンも、昨日の鍋も美味しかったし」

「………材料も無いんだが、まぁ、パンにしようと思ったし、それでいいならいいぜ」

 「うん!」とうれしそうに頷く彼女を見て、孝治は息を吐く。

ちょうどその頃、パンの焼ける匂いがした。昨日の夜仕込んでおいた、パンの炊飯器である。

 その匂いと空いている腹を押さえながら、キッチンに向かう孝治の裾を、何かが掴む。

眼をキラキラさせている真理を見て、孝治はその意味を知り、しばらく顔を歪めた後、大きく息を吐いた。

 電話を指差し、告げた。

「………御両親に連絡しなさい。あ、途中で変わってくれ。きちんと説明するから」

「うん!」

 笑顔で電話をかけ始め、二、三言話した後、孝治が替わり、事情を説明する。

母親は理解の早い人で、すぐに許してくれた。

とりあえず家の住所を確認し、ここの住所と電話番号を教える。今の親としては、のほほんとしていても、きちんとした母親らしい。本当にきちんとしているのなら、こんな男に預けようとは思わないだろうが。

 電話を切ると、孝治は真理に向けて言った。

「………迷惑をかけないように、だって」

「うんうん。コーチ、早く!」

 急かす真理を見て、妹が居たらこんな感じなのだろうと思い―――――苦笑した。

 彼女の分の朝食を余分に作り、二人でテーブルにつく。

 香り立つバターの匂い。それが鼻孔をくすぐり、真理は小さく頷く。

「良い匂い………。本当にコーチって料理上手だね」

 真理の言葉に、孝治は少しだけ鼻を高くし、告げた。

「まぁな。高校からずっと一人暮らしだったし、これでも調理師免許を持ってるからな。というより、調理師の専門学校いって画家を目指していたし」

「え? そうなんだ。じゃぁ、コーチって画家を目指していたんだ。でも、何で牧場を?」

「夢を挫折する人間っていうのは、いくらでもいるんだよ」

 フッと遠い眼をして、答える。しかし、すぐに表情を和らげると、告げた。

「ただ、仕事で絵を描くのと趣味で絵を描くのだと、全く違うからね。………正直、俺は後者のほうがあってると思うんだよ」

 きっと、晴海と真理達が挫折を味わうのはずっと先のことになるだろう。

できれば、人生の挫折は味わって欲しくない。それでも人間は、挫折して成長できるのだ。

「でも、コーチだったらクラブの先生ぐらいできるんじゃないかな? ううん、もっと頑張っていたら日本代表にだってなれた気がするよ?」

 流石に最後のほうは言いすぎだと思うが、真理の洞察は、ある意味正しい。ただ、自分の右足をちょっとだけ眺めながら、口を開いた。

「………片手間で手に入れられるものなんて、そんなにないんだよ」

 様々な胸中の考えを投げ出し、小さく呟いて牛乳を口に入れた。

 

 

 キッチンで片づけをしながら時計を見上げ、声をあげる。

「そういえば、そろそろ晴海ちゃんが来る頃だな。いつもならもう居るんだけど、どうしたんだろ?」

 いつもは朝の八時ごろにふらっと現れ、昼御飯と夕御飯を食べ、帰って行く。すでに慣れているとはいえ、今一度思い出すと変な人間に違いない。

 真理は少しだけ悩むと、告げた。

「でも、晴海ちゃんだっていつも来るわけじゃないんでしょ? こないかもしれないじゃん」

「………まぁ、それもあるか。気が付いたら居るから、最近錯覚して」

 自分で頭を掻きながら、唸る。彼女が居て当たり前、というわけではないが、何となく気になってしまう。

その感情が何なのか―――恐らく、子を持つ親の心境に近い。

 その時、真理が声をあげた。

「あ、そういえば、今度お祭りがあるんだった。ねぇ、コーチ! 一緒にいこ!」

 真理がそういい、見上げてくる。その眼を見て、孝治は苦笑しながら告げた。

「忙しくなければな。俺より、意中の男子生徒でも誘ったらどうだ? 大体、女子は女子と一緒に行くほうが多いんだろ?」

 孝治の言葉に、真理がブスッと顔を膨らまし、怒りの籠もった声で言った。

「そんなの居ないもん。い・い・か・ら、いこ! コーチと一緒に回れば、御飯食べ放題じゃん!」

「………………一人で行け」

 とはいえ、彼女には幾つか迷惑をかけているので、あまり強く言えない。それ以上の面倒を見ているような気がするが、恐らく気のせいだろう。

ジィッと見られ、孝治は溜め息を吐いた。

「ほどほどにな」

 結局折れるのは自分なんだなぁ、等と思いながら、孝治はため息を吐く。

「うんうん! あ、晴海ちゃんも一緒に連れていこ!」

 晴海と真理を連れてお祭り。

いよいよ、保護者の心境だ。二人とも中学生だからか、それとも最近の女子の傾向なのか、二人は男性と一緒に行動する事へ、関心を持っていないようである。

 それもそうだ、と孝治は思う。そんなことを気にしているようなら、不法侵入したり孝治と仲良くなってくれたりしないだろう。

 ふと顔をあげ、苦笑する。

隣の真理へ、告げた。

「噂をすればなんとやら、来たようだ。………ン? アイツは誰だ?」

 珍しく(というのもおかしいが)遅い晴海は、男子を連れてきていた。

共にレストランの近くに自転車を止めると、こちらに歩いてくる。その二人へ、孝治が声をかけた。

「おはようさん。今日は、彼氏連れかい?」

 雄一の言葉に、珍しく晴海から睨まれた。

苦笑しながら、孝治は隣の男子に視線を向ける。

 身長は、孝治の身長よりも頭ひとつ分ほど小さいだろうか。顔立ちはしっかりしているし、格好良い分類に属されるのは確実だ。

 その男は、孝治に頭を下げると、声を出した。

「あ、あの、瀬戸 祐樹です。晴海さんとは同じ学年で――――」

「はぁ、君が噂の。ああ、俺は森繁 孝治。これでも二十一になりそうなならなそうな、微妙なお年頃」

 そういい、握手する。男の子――祐樹は、怪訝な顔をしていたが、それよりはやく晴海がボソッと口を開く。

「労働力」

「何! 手伝ってくれるのか! いやぁ、助かるぜ」

「え? へ?」

 ガシッと祐樹の頭を掴む。彼の態度、晴海の性格からして「そうではない」のは分かっていたが、それを逃すほど孝治は優しくない。

 彼の首元を掴み、孝治は勢いに任せて引き摺っていく。

「いやいや、よかったよかった! 牛のために柵を直さないといけなかったからな! はっはっは!」

「あ、え? あ、ちょっと!」

 祐樹を引きずりながら、近くの小屋に歩いていく孝治。

それを見ながら、真理は晴海へ、声をかけた。

「でも、どうして一緒にいるの?」

「………しらない」

 晴海は自転車から鞄を取り出すと、そのまま家の中に入っていった。

 その後姿を見送り――――真理は、気が付いた。そして、大声で叫んだ。

「結局練習見てくれないの!」

 慌てて、孝治達の方に走っていった。

 

 

(うやむやには出来なかったわけで)

 結局、彼の性格からか手伝ってくれる事が決まり、孝治は真理の相手をしていた。

孝治からボールを奪う、という簡単な練習だが、スタミナは無いがテクニックはある孝治から奪うのは、結構難しい。

 孝治はボールを保ちながら、祐樹に指示を出す。

「そうじゃないって。針金だと動物が怪我するしな。っと、甘い甘い。もっと相手の身体全体を見ろって」

 祐樹に指示を出している間も、真理からボールを奪われないようにする。器用だな、と感心しながらも、真理は一生懸命考えた。

(………やっぱり、コーチは凄いな)

 孝治は、真理の身体の前に腕を出す。それにより、ボールに近づけず、さらには孝治の体が寸分違わず割り込んでくる。

反則のようだが、決して反則にはならない。屈強で巧みな外国選手は、全員このようなテクニックを持っている。

 さらにいえば、あまり動いていないので、孝治のスタミナは減っていない。意識を祐樹に向けても、取れる気がしない。

(………パワーじゃ勝てない。………なら!)

 身をかがめ、孝治の内側に回りこむ。しかし、孝治はボールと真理の間に立ち、回り込もうとする真理を押さえた。

「甘いって。ほら、柵をあわせるときには裏に木の枝を置くんだよ。そうそう、やればできるじゃないか」

 結局、真理が孝治からボールを取ることは出来なかった。

 

 

「早かったね………」

 晴海がちょうど本を読み終えた頃、外はすでに日が落ち始めていた。扉が開く音がしたのも、ちょうどその頃だ。

「お前の彼氏のおかげでな」

 汗を拭きながら家に入ってきたのは、孝治だけだった。他の二人は、草原で大の字で倒れている。

 冷蔵庫から麦茶を出し、コップに淹れる。そのころになって、ようやく真理と祐樹が家の中に入ってきた。

「つ、疲れた………」

「うう………。自信喪失だよ」

 それぞれ椅子に座り、思い思いの言葉を口にしている。その彼等と晴海に麦茶を出しながら、孝治は口を開いた。

「女の子だからって力ずくで来ないとは限らないだろ? ま、努力賞ってところか。祐樹君、手伝ってくれてありがとうな」

「い、いえ。良い経験になりました」

 麦茶を受け取りながら、祐樹は苦笑する。成る程、性格も申し分無いな。

 そこで、思い出す。

「そういえば、今度祭りがあるらしいな。真理ちゃんに誘われたんだが、二人はどうする?」

 晴海が、無表情な顔で見上げる。鞄から本を取り出すと、視線を落としつつ言った。

「行かない。人込み、嫌いだから」

「そうか。ま、お土産は買ってきてやるよ」

 祐樹にも視線を向けるが、彼も首を振る。どうやら、人込みが嫌いな人間が多いらしい。

「へっへ〜〜〜〜♪ コーチ! 祭りは十日だからね」

 嬉しそうにいう真理の言葉に、孝治は声をあげた。

「と、十日っ!?

 孝治の叫び声に、真理は眼をぱちくりさせる。訝しげに視線を向けてくる真理と祐樹へ、孝治は頭を掻きながらこたえた。

「ああ、いや、レストランの料理道具が届く日で、な。もしかしたら、難しいかも知れん」

「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 あからさまに不機嫌そうな声をあげる真理へ、孝治は手を合わせながら頭を提げる。

「ま、まぁ、祭りまでには終わらせてみるさ。さ、晩御飯にしようか。何が良い?」

「え? あ、僕も良いんですか?」

 祐樹の訝しげな言葉に、孝治は「あ」と声をあげた。頭を掻きながら晴海と真理を見て、呟く。

「いや、この二人はいつの間にか家で飯を食って帰るようになったからな。よくよく考えれば、おかしいか」

 しばらく三人の顔を眺め―――とりあえず、頷く。

「ま、明日からは晩飯前に帰す事にして、今日は良いだろ。さ、晩御飯は素麺だ。喰ってくんだろ? 祐樹君も」

「は、はぁ………」

 祐樹の視線は、晴海に向けられている。当の晴海は、全く意に介した様子もなく、本を読み続けていた。よく飽きないな、と孝治は思う。

(ま、恋ができるというのは良いことだ。俺も、応援したいが)

 そう思いながら、孝治はキッチンに引っ込んでいった。

「………ん?」

 キッチンに引っ込む直前に、孝治はあることを思いつく。真理に纏わりつかれ、祐樹の視線を浴びている晴海を見て、胸中呟く。

(あいつ、十日に俺が行けないから行かないとか、考えていたわけじゃ、無いよな?)

 そう考えながら、自嘲する。自意識過剰なのは、なんというか、好ましくない。

 そう考え、孝治は今度こそ、キッチンに入っていった。

 

 

 

 

 学校が夏休みなってから、平凡な日々が続いた。

 毎日のように孝治の下を訪れては、本を読んでいた。というより、孝治が来る前も、あの家でずっと読んでいたのだから、習慣のようなものだ。

 牧場は、牧場らしくなってきた。牛が二頭、どこからか現れて、近々レストランも出来上がる。真理と祐樹も、結構頻繁に訪れていた。

 夏祭りは、あまり行きたくない。騒がしいし、何が楽しいというのだろうか。

 それでも――――――――――――――

 自分は、何を考えて、こんな気持ちになるのだろうか。

 モヤモヤした、むねやけしたような気持ちは。

 

 

 

 

 

 


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